優しい手品師

リビングの床で寝ころんだまま、
みんなの笑い声や気配を感じた。
楽しくて温かい気配たち。
自分の体が思うように動かないので、
体の傍まで食べ物を持って来てくれるように
その笑い声に頼むのだけれど、
どうやら自分の声はみんなに届かないらしい。
しばらくして、その気配たちが一人また一人と
リビングから消えてゆく途中に、
これが夢だと気づいたのだよ。
気づかれた夢は、客に種明かしをされた手品師のように
慌てて逃げてゆく。ご苦労様。さようなら。

空気清浄機の音だけが響くリビングで横たわったまま、
さっき夢の中で誰かに頼んだ言葉を実際声にしてみる。
___メロン持って来て。

やっぱり自分は風邪らしい。

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