はらイズム

はらたいら氏の通夜に行ってきたのだよ。
斎場入り口には多くの野次馬と、
煌々と照明をたく各マスコミ関係者。
入り口手前で少したじろぐ小心者な自分。
だって、ネクタイは未だにバッグの中なわけで。
自分のような名も無きミュージシャンに
カメラを回す局があるはずもないのだけれど、
真っ昼間みたいに明るいその場所を
ノーネクタイ、しかもシャツのボタンも止めきって
いないそんな格好で通れるわけないでしょ。
いそいそと脇から入って、すぐにトイレに飛び込む。

「無理して慣れないスーツ着て来るより
 ツカサらしい格好で来たらえい。」

たいらさんならきっとそう言ってくれるに違いない。
トイレで締め慣れないネクタイを締めすぎて、
軽い呼吸困難になりながら、ふとそんな事を思ったのだけれど、
故人のイタズラ好きを考えると、例えばパーティー等の前日、
「オレもジーンズで行くき、ツカサもジーンズで来い!」
と、無頼漢を装っておきながら、
当日、自分はちゃんとした格好で来て、
「ツカサ、ジーンズはないだろジーンズは(笑)。」などと、
平気な顔して言う人だから、
ここはスーツを着て来て正解なのだよ。

明日の葬儀には、今日以上の参列者と各界著名人が来ることだろう。
自分は今日、故人に伝えておきたいコトは伝えたし、
棺の中で安らかに眠る顔も拝めたので明日は出席しない。

「かまん、かまん。死んだ人間は死んだ人間で上手ぉやるき。
 おんしゃは、生きちゅう人間を大切にせぇよ。」
ウィスキーグラスを高々と掲げて彼が笑う。