武田光太郎という男

2001年。冬の寒さが身に凍みる1月の某夜。
渋谷の居酒屋で、ボクの同郷の先輩でもあり、
当時まだ正式に結成していなかったhenssimoの
サウンドプロデューサーを受諾してくれたばかりのN氏と、
ライブ公演とレコーディングの為アメリカから一時帰国し
ていたN氏の弟を囲む集いの席が開かれていた。
そんな飲み会の最中、店の入り口のドアが開き、
「おーい、こっちこっち。」とN氏が手招きしたその先には__。

脱色した髪の毛を肩手前まで伸ばし、
首には阪神タイガースの携帯ホルダー。
その男が虎模様ホルダーに繋がれた携帯電話の画面と
こちらを交互に見ながらこちらに歩いてくる間に、
N氏がボクに説明する。
「ツカサ、ヘンシモのドラム探してたやろ? 彼に頼んでおいたから。」
___うわっ、ダッサ
これがその男に対するボクの第一印象である。

その男がボクの対面の席に付き、N氏がボクに紹介する。
「こちら武田光太郎くん。」
「初めまして。冨岡ツカサです。」と慇懃丁寧に挨拶をするボクに対し、
「どぅもっす。」と、相変わらず携帯画面とこちらを交互に見ながら
適当に挨拶を済ませる失礼なその男。
__無理。絶対無理。コイツ嫌い。

それから6年。
途中、諸事情で持ち家を手放した彼の引っ越しを手伝ったり、
諸事情で離婚が決まった彼の家で、微妙な空気に苛まれながら
パソコンのメンテナンスをしたり、自分の離婚の時も唯一の
相談相手だったり、ライブの合間に2人でダラダラとパチンコ
したり、彼とは「バンドメンバー」だけでは括りきれない、
そんな付き合いをさせてもらっている。

たった6年で彼のすべてが解ったわけではない。
しかし、彼が引き起こす様々な自業自得に振り回されても、
たとえ貸した金が1年以上戻って来なくても、
ボクはドラマー武田光太郎が大好きで、
人間・武田光太郎が大好きなのだよ。

普段ヘラヘラとした笑顔の裏は意外と熱い男、武田光太郎。
今日は彼の誕生日。
ま、いまさらめでたくもないけれど____。