父の横顔

父親はボクに対してというか、
躾に対してとても厳しい人だった。
勉強中は必ず正座だったし、
食事中にボクが少しでも行儀が悪いと、
箸でボクの腕を叩いたし、
子供のボクが反論や言い訳なんかしようものなら
ゲンコツが飛んできた。
「勉強せんかっ!」とよく叱られていたボクは、
父親が帰宅するまでは、寝ころんでテレビを見たり、
なにかしら遊んでいるのだけれど、家の表を通る
車のエンジン音で、それが父親の車か他人の車かが
聞き分けられるくらい「対父親レーダー」は発達していて、
父親が玄関のドアを開ける1分前には必ず教科書とノートを
開いていた。もちろん正座も忘れずに。

ある初夏の夜も、家の前でブロロロロンと父親の車の音がして
父親が帰宅した。もちろんボクは1分前から勉強している。
いつもなら定位置に座ってすぐさま競馬新聞か競輪新聞を
広げる父が、この夜は玄関からボクに手招きをする。
「ツカサ、ドライブ行くぞ。」
車好きの父親に夜のドライブに連れて行ってもらうのは
珍しくはなかったけれど、この日は見覚えのない山道を
延々とひた走る。
「う〜ん、勉強しているフリがバレて、こりゃとうとう
 ボクは山奥に捨てられるかぁ・・・。」と、助手席で
車のライトだけが照らすその先と、
隣で運転をする父の横顔とを交互に見ていた。
しばらくして車を止めた父親が
「ここからちょっと歩くぞ。」と言うので、
「とうとう来たか、ボクの捨て場所へ。」と観念して車を降り、
先に車から降りていた父に手を引かれ、獣道を入って行く。
「ここじゃ。見てみぃ。」
父親の指さす先を見ると、暗闇の中で無数の点滅する光が
浮遊していた。ホタルだ!!
水の匂いというか草の匂いというか、
ホタル特有のその匂いに包まれた世界で、
生まれて初めてホタルを見た。
今でも、あの時ほどのホタルの大群を見た事はない。

あの時、父がボクに何故急にホタルを見せてくれたのかは、
父が亡くなって28年経った今はもう知るよしもないのだけれど、
今日はそんな父の命日なのだよ。
厳しく優しく、またあらゆる勝負事に熱中していた父を偲んで、
パチンコに行ったらこの上なく大負けした。 お父さん、せめて今日ぐらいは勝たせてよね(泣)______。

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