アタシャ、テロより虫怖い

実は昨日の昨日まで、国境を越えてタイに行くのは
実のところ迷っていたのだよ。
ボクが向かおうとしているタイの南部は、
ここ数年、地域独立という理念を掲げた過激派ゲリラ達のせいで、
情勢不安で治安も悪く、つい数日前もヤラーという町で
無差別銃撃テロがあったのをニュースで知っていた。
マレーシアのどこかの島に行き、釣りと海水浴をしながら過ごすか、
それともタイの南の町で過ごすか、どちらを選ぶか
昨日まで決めかねていた。

そして、昨晩。ふと目を覚ますと、なんと枕元に米粒大ほどの虫がいた。
慌てて飛び起き、恐る恐る指でその虫を弾くと、つぶれて真っ赤な
血だけがシーツに残った。
___え?オレの血?吸われた?どこを?
未だに、左手首と左ふくらはぎの水疱痕も癒えないというのに、
この上さらに水疱が出来たりしたら、たまったものではない。
よし! 明日タイに行こう! タイなら物価も安いし、ココと同じぐらいの
ホテル代(1泊60RM=約1800円)も払えば、清潔で綺麗なホテルにも
泊まる事も出来る。そこでのんびりと過ごしながら傷を癒そう。
ボクの心の奥の方、いつもは優柔不断な天秤がガタンと音を立て
傾いた瞬間だった。

朝。ホテル隣りの食堂で朝食を済ませた後、ホテルをチェックアウトし、
バスターミナル(以下B.T)に向かった。
間もなくしてやってきたNo.29のオンボロバスに乗り込み、車内で
3.9RM(約117円)を支払い、自由席のシートにもたれた。

コタバルのB.Tを出発して1時間、途中、物々しい検問を通過して、
バスは国境の町・ランタウパンジャンの国境ゲート前に到着。
バスを降り、国境ゲートに向かう。ゲートの向こうには幅50mほどの
川が流れ、その上に橋が架かっていて、橋の向こう側がタイランド。
ボク自身は11年前と7年前に二度ほどここを訪れている。
昔と変わらないその風景。ただ唯一違うのが、数年前にタイ側の
国境ゲート付近で爆破テロ事件があった事に代表される治安の悪さ。
普通の旅行者なら、この国境ルートは避けるのが普通で、
現に外国人ツーリストの姿は、ボクとバスの中で一緒だった
若いイギリス人カップルだけ。
ちなみにこのイギリス人カップル。どうやら初心者バックパッカーの
ようで、これから待ち受ける危険を承知で国境ゲートをくぐろうと
している割には、落ち着きがなく、不安な目で周囲をキョロキョロ。
優しく話しかけてくるマレー人たちにも、怪訝そうな表情を見せて、
フレンドリーの欠片も無い。
そんなんじゃ、テロリストの恰好の的になるぞ!
ワタシを見習え!このミスターフレンドリーを!
ワタシならテロリスト達ともきっとオトモダチになれるのだ。
あっ、『無差別』テロじゃフレンドリーも糞もないか。

マレーシア側のイミグレーションで、パスポートに出国スタンプを
押してもらい、途中、休憩中の国境警備員と
「その釣り竿置いていけよ。」
「やだよ。またこっちに戻って来て使うんだから。」
と、ボクの釣り竿の話題で盛り上がった後、いよいよ国境に架かる
橋を渡る。少し雨が降ってきたので、早足で橋を渡りきり、
タイ側のイミグレーションの軒先で雨宿り。
出入国カードに適当に(というかほとんどいい加減に)記入してから
出入国審査場へ向かう。
審査官に「タイの何処へ行くのか?いつまで滞在するのか?」とか
根掘り葉掘り聞かれるも、そんな事は自分にも解らない。
明日マレーシアに戻るかもしれないし、居心地が良ければ
タイの上の方に北上するかもしれない。
そうボクが答えると、審査官は無愛想な表情をくずさないまま、
ボクのパスポートにドンッと入国スタンプを押して、パスポートを
こちらに突き返した。
入国審査官の彼からすれば、
「なんでまたこんな危険な町に、しかも危険な時に来るのかね。」
と、呆れているのかもしれないけれど、ボクにしてみれば、
テロの危険をおかしてまでココに来る理由があるのだよ。
「アタシャ、テロより虫怖い。」

入国審査をパスし、バイクタクシーに乗り(3RM=約90円)
国境の町・スンガイコーロクへ。国境の町というだけあって、
マレー語を話せるタイ人も多く、ボクを乗せてバイクを走らせる
この親父も例外ではない。ボクがマレー語で、
「ヤラーの辺りで無差別銃撃テロがあったんだって?」と、
確認がてらに彼に訪ねると、彼からは予想もしない答えが返ってきた。

「あぁ。つい2週間前にも、ここスンガイコーロクでも爆破テロが
 あってよぉ。・・・ったく、危なくってしょーがねぇぜ。」

え? 爆破テロ?
ヤラーの事件はTVニュースで知っていたけれど、
それはニュースでやってたっけ?(汗)
「爆破テロ騒ぎなんてしょっちゅうさ。幸い、この間のは死人も出な
 かったし、ニュースにもならなかったんだろ。ワッハッハ。」

___ワッハッハじゃないでしょ。

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