結婚式ナノダ!!

海岸沿いの道路脇に止められたバイクのシートに寄りかかりながら
日光浴をしているボクのトコロに、
Nipah Bay Villa(ニッパーベイビラ)のオーナーがバイクで通りかかった。
どうやら知り合いの結婚式に行く途中だそうで、
「そうそう見られるモノではないから、是非ツカサも一緒に来なさい。」
と、自分の乗るバイクの後部シートをポンポンと軽く叩く。
「短パンにTシャツだし遠慮しとくよ。」
と一度は断ったのだけれど、大丈夫だと彼が言うので、
やはり好奇心には勝てずバイクにまたがった。

こちらの結婚式。初日は式場で、二日目は新郎の実家で、
三日目は新婦の実家で、計三日間も行われるそうで、
今日はその二日目らしい。
ちなみに花嫁のお色直しは、多いトコロで十数回もあるらしい。
道中、そんなオーナーの説明をバイクの後部座席で聞いているうちに
村に到着。

Nipah Bay (ニッパーベイ)から約10km離れたオーナーの住む集落は、
ボート屋の友人ノンさんの住処と一緒。
海岸から内陸へと幾つもの路地が複雑に入り組み、
素朴なマレー風建築の家々が立ち並ぶその場所は、
そこで暮らす人々の息づかいが身近に感じられる。
ニッパーベイやパシール・ボガ、パンコール・タウンらの島の観光地
しか知らない人が訪れたら、きっとある種の感動と郷愁を覚えるに
違いないその風景も、ほぼ毎晩のようにノンさん家に晩ご飯を
ご馳走になりに来ているボクにとっては、
「また来ちゃった感」の方が強い。

話を結婚式に戻して・・・。
新郎の実家の敷地にはテントが張られ、その下の長テーブルには
たくさんのご馳走が並べられている。
大勢の人の間をすり抜けるようにして歩いて行くと、
一番奥のテントの下に、綺麗なマレー民族衣装を来た
花嫁さんと花婿さんが座っていた。
「ご結婚おめでとうございます。写真撮ってもいいですか?」
お祝いの言葉もそこそこに、携帯電話のカメラ片手に
不躾なお願いをする短パン・Tシャツ姿の日本人に対しても、
穏やかな微笑みを返してくれる。
それどころか、写真を撮り終えたボクに
「隣りに座って食事をして行って。」と、日本で言うところの
『仲人席』を指さす。
「いや、誘われてちょっと見物に来ただけだし、
 ご祝儀もあげていないし、それに何よりも・・・、
 離婚して1年ちょっとしか経っていない奴が
 其処に座っちゃ縁起が悪いってもんでしょ。」
と思ったけれど口には出さず、彼らの勧めをサラリと笑顔でかわしてから、
さらに会場内を見学。

手伝いに来た近所の家々の主婦達の中に、ノンさんの奥さんをみつける。
「あらツカサ。今晩も来るでしょ?」と笑顔で聞いてくるけれど、
実は昨夜、ノンさんの奥さんは風邪で寝込んでいた。
その為、昨夜の晩ご飯は、一日中仕事をしたノンさんが
ボクや彼の子供たちの為に用意してくれたのだ。
ノンさんの奥さんも顔は平静を装って結婚式の手伝いをしているけれど、
昨日の今日では正直辛いだろうと思い、
「今夜はニッパーベイで友人と食事する約束をしてあるから。」と、
嘘をついて彼女の誘いを断った。

帰り、新郎新婦の親族から、一輪の造花を手渡された。
その造花には網に入った『ゆでタマゴ』がしばられていて、
それは花の実に例えているらしく、お祝いに来てくれた人一人一人に
『人生の花を咲かせ、幸せが実るように』と配られる、
日本でいうところの『引き出物』のような物。
引き出物にしては質素だなと感じる人もいるかもしれないけれど、
『恥ずかしすぎる文字の入ったワイングラス』だとか、
『置き場所に困るだけの使いようのない皿』だとかよりも、
この一輪の造花とゆでタマゴの方が心の深いトコロで有り難〜く感じられるのだよ。

ボート屋まで戻った後、木の枝に挟んだその造花を眺めながら、
「オイラもあんな風にたくさんの人に祝ってもらったっけ。
 それなのに申し訳ない。」
などと、自分の犯した事を
しばし猛省していると、ボート屋のスタッフの1人であるジェイボン
(ボクはコイツをバカボンと呼んでいる)が、造花にくくりつけられた
ゆでタマゴを取って、パクリ。

「あっ、この野郎!!オイラの幸せの実を喰いやがったな!?」
と、半分冗談で怒るボクに対して、ジェイボンは憶する事もなく言う。

「オレ、腹減ってたネ。シアワセじゃないネ。
 コレ食べる。お腹イッパイでシアワセ。
 それに、幸せは置きっぱなしじゃ腐るネー。」

コイツはたまに正しいトコロを上手に突いてくる。
やっぱりオマエはバカボンだ(笑)。
そうだ、コレデイイノダ___。