強盗なのだよ!!(中編)

野次馬達が「 救急車! 誰か救急車!!」と、ただ事ではないテンションで
騒いでいるその輪の中、強盗達のナイフで切られた左腕は、
気持ち良いくらいにパカッ!と口を開けていて、
それを見た瞬間に、ヘナヘナと地面に片膝をついてしまった。
と同時に、左胸と右腰にこれまでに覚えのない激痛が走った。
どうやら思った以上に負傷しているようだ。

「こりゃ今晩の飛行機に乗るのは無理だろーなー。」

と思い、航空会社に電話をしようと、ジーンズの後ろポケットに
手を伸ばしたら・・・。___ありゃ?携帯電話が無い!?
ならば、と、前ポケットに入れておいたもう1台の
プリペイド携帯電話を・・・。おりょりょ?それも無い!?

ライターを灯して地面を照らし携帯電話を探したけれど見つからない。
「ヤツラに盗られたなこりゃ・・・。
 あぁー、携帯カメラで撮ったたくさんの旅の思い出が・・・。」

野次馬の1人で、ボクの次に近くで強盗団の顔を見た飲食店のオヤジが
「あれはマレー人じゃなかったな。ミャンマーかネパールだ。」
と、他の野次馬達に話しているけれど、犯人がどこの国のヤツかなんて、
こちとら知ったこっちゃないのだよ。あぁ携帯電話が。思い出の写真が。
と、落ち込んでいる暇もなく、次から次へとこれから自分がしなきゃ
いけない事が頭の中をかけめぐる。
あっ!そーだ! まず盗られた日本の携帯電話サービスを至急止めなくちゃ!!
悪用とかされてバカ高い請求書が来たら・・・。おー止めなくちゃ止めなくちゃ!!

「誰か携帯電話貸してくれ!!
 大至急、日本に電話しなきゃいけねーんだ!!」

幸い財布は無事だったので、そこから50RM札1枚(約1500円)を取り出し、
野次馬達の目の前でピラピラさせてみると、
マレー人は一般的に親切だからか、それとも金に目がくらんでか、
すぐに携帯電話を持つ手が数本、ボクの目の前に伸びてきた。
そのうちの一台を借りて、バッグの中のメモ用紙に記してあった日本の友人の
電話番号に電話をかけてみる。

「はい、もしもし。」___出た!! ラッキー!!

「ツカサやけど。実はね、明日帰国するって言ってたやん?
 それが、ついさっき強盗に襲われて携帯電話を2台とも盗られたのよ。
 でね、do○omoに連絡とってオレの携帯を大至急止めてくれんかね?」

「へ?強盗って?だ、大丈夫!?」

「こうやって話せるんやから意識はある。けど体中痛い。泣くほど痛い。
 左腕ナイフで切られて、もぅ見るも無惨。誰かが救急車呼んでくれた
 みたいで、あ、救急車の音が聞こえてきた。
 で、携帯電話の件やけど・・・。」

「わ、わかった。大至急do○omoに電話してみる。」

「あ、それとね。この分じゃ今日の便に乗れそうにもないし、
 J○Lに電話して、事情話しといてくれんかね?  あ、救急車が来た。
 これから病院やし、この電話、野次馬の1人から借りてる電話やから、
 もう切るね。携帯電話盗られたからアレやけど、また連絡出来る状態に
 なったらすぐに電話するから、do○omoの件とJ○Lの件ヨロシク。
 ホント迷惑かけてすまんね。ぢゃ。」

駆けつけた救急隊員に救急車の中に半分押し込まれながら、
電話を切って持ち主に返した。
携帯電話を貸してくれたマレー人とは別のマレー人の1人が
病院までボクをフォローしてくれるという。マレー人は親切な人が多いのだよ。

救急車に乗り、病院へ直行と思いきや、ボクが普段見慣れた界隈をウロチョロ。
何?してんの?と思っていたら、明らかに病院ではない商店街の一画で
救急車は停まり、ガチャッと開いた後ろのドアから、頭から流血している
インド系マレー人の兄ちゃんが担架に乗せられ運びこまれてきた。
「えぇっ!? 相乗りですかーっ!?」
日本では考えられない状態のその車内で、
道中ずっとビィビィ泣く担架の上のインド系マレー人の兄ちゃんに、
うっさい!! 泣くな!! オマエの怪我なんてたいした事ないやろっ!!
 これ見てみぃ!! 左腕ザックリやぞザックリ!!」
と、
慰めにも自慢にもならぬ事を言ってはみたけれど、当然泣きやまないわな。

あーこれから病院行って警察行って・・・、長い夜になるんやろーなー・・・。
日本にいつ帰れるんやろ・・・。今晩ホテルどうしよ・・・。
というか帰国するつもりやったから所持金少ないやんか、ハァ・・・。
なんでこんな事になったんやろ、ハァ・・・。

けたたましいサイレンを鳴らしながら走る救急車の内側。
インド系マレー人兄ちゃんの泣き声とボクの膨大な量のため息が
青白い光が煌々と照らすその車内いっぱいに、うずたかく積まれてゆく。
その隙間からぼんやり眺めていた、フロントガラスに浮かび上がる
病院までの見知らぬ、ホント見知らぬその夜道___________。

後編へつづく