強盗なのだよ!!(後編)

病院に着くと、そこで救急車から荷物ごとドサッと降ろされ、
救急隊員が指さす「緊急外来入り口」へびっこを引きながら
向かうジーンズも靴も血だらけのボク。
パーテーションで区切られた医療室で、左腕になんだかワケの
解らぬ注射を打たれた後、このまま緊急手術かな?と思いきや、
注射を打ってくれた看護師いはく、
「じゃ、受付で手続き済ませて治療の順番待って。」

おひおひ。
左腕の中身剥き出しのまんまでオレはどーすりゃいいの?

しばらく駄々をこねてみるも通用せず、荷物ごとロビーに
追い出されてしまったので、仕方なく受付で手続きを済ませ、
50RM(約1,500円)前払いし、治療の順番待ちカードを受け取り
他の患者たちで賑わうロビーの長椅子に腰掛けた。

風邪か何かで病院に来たのだろう。パジャマ姿の幼い女の子が
歳の変わらぬ姉妹と2人、両腕もジーンズも靴も血だらけのボク
周りをキャッキャッと走り回る。異様な光景だ。

なかなか自分の順番が呼ばれないのにしびれを切らし、途中、
病院の隣りにある警察署に行き、事件の報告をした後、帰国便の
出発時間が迫っていたので、電話を借り、帰国便の変更手続きを
しようとしたのだけれど、航空会社となかなか連絡が取れない。
困り果てて日本大使館に電話を入れて事情を話してみたけれど、
結局、日本大使館は何もしてくれないと言う事が理解出来た次の瞬間、
「この役立たず!!」と言い放って電話を切っていた。

ボクの為に、自宅から病院まで車で片道1時間の距離を駆けつけ
てくれたマレー人の友人・ボウイの手助けもあって、帰国便の件は
なんとか解決し警察から隣の病院の建物に戻る。
やっぱりというか何というか、順番はとっくに抜かされていて、
受付でさんざん怒られた後、再び順番カードを受け取り椅子に
腰掛け、再び順番待ちをさせられる。
まったく・・・、ツイていない時はこんなもんだ。

やっと順番が回ってきて診察室に入り、医師の指示で一番痛む
胸部のレントゲン写真を別室で撮った後、その足で手術室へ
手術室では別の医師と看護師の2名がボクを待ち受けていて、
彼らに促され手術台に横になり、左腕の縫合手術開始。

医師「あー派手にヤラれたねぇ。ナイフかなんか?」
ボク「はい、ナイフです。強盗に遭って・・・。」
医師「へぇー。ちょっとチクッとするよ。」
麻酔注射を左腕に打ちながら、その医師の口は止まらない。

医師「で、キミ何人?」
ボク「日本人。」
医師「へぇー。マレー語上手いねぇ。こっちに住んでるの?」
ボク「いや、単なる旅行ですよ。」
医師「ほぉー。学生さん?」
ボク「いや一応・・・ミュージシャン、シンガーやってます。」
医師「へぇー!! そりゃ凄いっ!! 腕の感覚もぅ無い?コレ痛くない?
   じゃあ縫うよ。・・・ところでキムタク知ってる?
ボク「知ってますよ。」
医師「友達なの!?」
ボク「いやいや。彼は超有名だもん。誰もが知ってる。
   ボクは有名じゃないし(笑)。」
医師「キミはどんな歌を唄ってるの? ちょっと唄ってみてよ。
ボク「無理。今、息をしたり体を動かしたりすると
   左胸がすんげぇー痛いんですよ、ホント気ぃ失うくらい。

医師「小声でいいから、ちょっとだけ唄ってみてよ。

人前で唄う時はどんな状況でも決して手を抜かない主義のボクは、
『イルカの居る場所・居ない場所』のワンフレーズを熱唱した。
手術台の上で、気絶するほどの左胸の痛みを堪えながら。

「ほぉ上手いじゃないか(笑)。」
医師からお褒めの言葉を頂いた後、しばらくして縫合手術終了。
また来いよ。いや、病院じゃなくマレーシアに(笑)。
「うん!」
手術室の前で陽気な外科医と別れた後、左腕11針と右腕3針
縫ったその体で診察室へ戻り、レントゲン写真をろくに見よう
ともしない診療医に胸と腰の痛みを訴えるも取り合ってもくれず、
診療室を追い出されるカタチで薬局へ。

薬局で飲み薬を受け取り、マレー人の友人・ボウイの車に乗り込み、
警察署(本署)まで行き、私服警官から事情聴取を受け、数時間前に
チェックアウトしたホテルに再びチェックインした時、
ホテルロビーの時計の針はもう夜中の3時をとっくに過ぎていた。

すでに顔なじみになっていたホテル従業員たちの心配顔に
見送られながら、エレベーターに乗り込み自室へ。
胸と腰の痛みのせいで荷物が持てないボクに代わって、
ボウイが部屋まで運んでくれた。
「明日また様子を見に来るから。それまでホテルから一歩も
 出るんじゃないぞ。そんな体で出歩いたら本当に危険だぞ。」
忠告を残して部屋を出て行くボウイを見送った後、
そろりそろりとベッドに仰向けになった。痛みで寝返りさえうてない。

ベッドランプだけの薄明かりの中、傷だらけの自分の腕を眺めながら、
本当なら今頃帰国便の席で映画を観ているか寝ているはずだった
もう一人の自分を思い浮かべたり、携帯電話が盗まれた悔しさや
後悔ばかりが後に立ち、なかなか眠れぬ夜明け前_______。

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