死にたい理由・生きたい理由

警察庁統計資料によると、昨年の国内での自殺者は
年間3万人以上だそうで、性別分けでは男性が2万数
千人で残りが女性。職業別だと圧倒的に「無職者」が
多く、続いて「被雇用者」がそれに続く。

たしかにどーしよーもなく死にたくなる時はある。
それに対して、どーしても死にたくない、生きたい理由も
たしかにある。

死にたくない理由のその幾つかは、
「親より先に逝くほど親不幸はない。」とボクの父親の
亡骸に向かって、泣きながら我が子を叱っていたいつかの
祖母の姿だったり、ボクを慕ってくれる仲間たちの笑顔だ
ったりするけれど、どーしよーもなく死にたい衝動に駆ら
れている時は、それらの生きたい理由とで葛藤を繰り返す。

そんな時ボクは左腕の傷跡を眺める。
いやいや、強盗団にナイフで切られた例の傷ではなく、
そのすぐ傍にあるナイフの切り傷より少し古い傷跡___。

数年前、やっぱり東南アジアの海辺で捕まえた小さなタコを、
現地の子供たちの機嫌を取る為に、自分の左腕で這わせて
いたらガブリとタコに噛まれた。タコに噛まれると意外と
痛い。というかかなり痛い。慌てて腕からタコを引き剥がし、
砂浜に叩きつけた後、砂浜でうごめくタコを中心にして
出来上がった欧米人旅行者たちの輪のその外側で、1人で
左腕の傷から毒を吸い出しては唾と一緒にペッペッと砂浜に
吐き出す動作を1人繰り返す。
タコの種類によってはヒョウモンダコのように、人間を数分で
死に至らしめる猛毒を持つヤツもいる事を知っていたボクは、
噛まれてから数分の間は、それはそれはもう必死で、まるで
ビデオの早送りのような機敏な動作というか、大慌てで毒を
吸い出した。
おかげで死にはしなかったけれど、帰国までの数日間、
左腕が手首までパンパンに腫れ上がり熱を持った状態が続いた。

タコに噛まれてからの数分間、死にたくないという一心から
必死で毒を吸い出した時に、必死過ぎて皮膚の一部も吸い出し
たらしく、未だに月のクレーターのようにえぐれているその
左腕の傷跡。
あの時、たしかにボクは「生きたい。死にたくない。」と
強く思った。あの時の自分を裏切らない為にも、
ボクは簡単に死んではいけないと思い、その傷跡を眺める。

ま、タコに気づかされるトコロがなんとも愚かではあるけれど____。