ピラニアビーチへようこそ

ボクが日中過ごすビーチの浜辺からボートで2分
くらいの沖合に、ギアム島と呼ばれる小島がある。
ローカル観光客や外国からの観光客のほとんどが
そこで地味な色の魚相手にシュノーケリングを
楽しんでいるのだけれど、ボクはどーもその地味で
人慣れし過ぎた熱帯魚たちが好きになれない。

普段はボート業務の手伝いがてらその島に渡る客を
乗せたボートでその島まで行き、現場に着けば
魚が見たい客の為に船の上から食パンをちぎっては
水面に投げる。
ウジャウジャと寄ってきてはバシャバシャと水面で
音を立ててパンを奪い合う地味な熱帯魚たちを
物珍しそうにカメラにおさめる観光客たちの背後で
ボクは何度ため息をついた事か。

かといって、一度もこの地味な熱帯魚たちを見せず
して友人2人を日本に帰すわけにもいかない。
なので一緒にギアム島に行ってみた。
そして友人K氏にシュノーケリングをするよう促し、
彼が船から水中に身を移したと同時に、船の上から
彼の周りに、というか彼をめがけて食パンを投げて
みた。予想通り彼めがけて熱帯魚の群れがわんさか
寄ってきて、彼の周りのパンを貪るように食べ始めた。

「やばいです! ちょっとストップ! あ痛たたっ!」
シュノーケルを咥えたままのK氏が叫ぶ。
「ほぉ。やっぱり痛いかえ。」
他人事のような口調で船の上から彼に声をかけながらも、
食パンを投げる動作をやめようとしないボクと友人Fの
顔はすでにいじめっ子の顔になっている。
魚たちから逃げるように水面を泳ぎまわるK氏めがけて
食パンを投げ続けながら、低く小さい声でボクは言った。

「ようこそピラニアビーチへ。」_______。