無知な善意のテロリスト

「飛ぶわけないじゃないっ!
 ボクの体重が何キロあるかアンタ知ってんのっ!?」
と、早口なお姉言葉でのたまうのは、ボクが日頃から仲良く
させてもらっている60歳も半ばを過ぎた御仁。
お茶の世界ではそれなりにお偉い方だそうだが、
ここでは四国の御仁としておこう。

さて、その四国の御仁。
今回の大震災で被災に遭った被災地の方々に物資を送ろうと、
早速地元のスーパーに出かけ、カセットコンロ用のボンベ
数十本余り買って帰り、いざそれを宅配便に依頼したのだが、
カセットボンベは「危険物」なので、たとえ1本でも
個人は宅配等では送れない。ましてや数十本など危険極まり
ない量である。

「どうしようコレ。
 ボク一人暮らしだし、死ぬまで鍋しても使いきれないわ。」


と、落ち込む電話の向こうの御仁に、なぐさめの声をかける。

「お尻に1本ずつ挿して火をつけて東京まで飛んでくれば?
 高度が下がったら、サッと新しいのを挿し替えて。」
で、文頭の言葉である。

いやいや、体重が軽かろうが重かろうが、
カセットボンベでは人は空を飛べない。
喉もとまで出そうになった言葉を呑み込んだ。

四国の御仁が優しいのは、ボクを含め彼を知る誰もが
認めるところであり、そんな彼が少しだけ、
ほんの少しだけではあるけれど、何かが足りない事も
誰もが認める周知の事実でもある。
ボクはそんな四国の御仁が大好きだ。

という心温まる無知な善意のテロリストのお話_____。