哲也へ

小学校4年生の2学期に隣町の小学校から転校してきた
下手くそな一塁手。先生の命令で渋々、学校内を案内する
当時ガキ代将だったボクの半歩後ろをついてくる。
(「頑張れ!下手クソな一塁手!」2009年6月9日参照)

ボクが小学校で虐めすぎたせいでもないのだけれど、
ヤツはボクと違う私立中学校に進学した。
けれど、家が比較的近所な為、ガキ代将と子分という
関係が崩れ、対等になってからもヤツとのつき合いは
続き、ヤツが毎日のように我が家に勝手に上がりこみ、
家族のように夕飯を喰って自宅に帰る日々。

↓中学1年生の冬。当時はこれでもイケてると信じていた。

中学3年になり、二人ともロックバンドに目覚め、
始めてバンドを結成。
パート決めの時に、皆にジャンケンで負けたヤツは
嫌そうな顔をしたものの、次の日にはちゃんとベースを
何処からか担いできた。
その頃大好きだった「THE MODS」と「ARB」を中心にコピ−。
「カバー」ではない。当時はみんなコピーバンド。

それぞれ高校に進学し、ボクの失恋をきっかけに、
ヤツと新たにロックバンドを組み直した。
ヤツが持ってきた「HOUND DOG」の楽曲のコピーと、
ボクの創ったオリジナルソングを演り始めたのもこの頃。
初めてのライブで、元カノを振り向かせようと熱唱する
ボクの隣でヤツは黙々とベースを弾き、時にコーラスをとった。


初ライブは大成功に終わったものの、結局元カノは戻っては来ず。

その数ヶ月後、同じ女の子を好きになり、結果、その子は
ボクと付き合う事になるのだけれど、その報告をヤツにした夜、
ヤツは一瞬だけ浮かべたもの凄く哀しそうな瞳をすぐに隠すと、
「よっしゃ今夜はみんなで吐くまで喰って飲むぞーー!」と、
ボクの肩に手を回し、焼き肉屋の暖簾をくぐった。
2時間後、焼き肉屋の前で涙混じりのゲロを吐くヤツの背中を
さするボクに「幸せにしちゃれよ・・・。」と小さく言った。

高校1年生の3月末。高知の高校を辞めて一人東京に出て行くボクを
空港まで見送ってくれたのも、その子とヤツだった。

それから2年間の高校生時代。夏休みや冬休みの度に、高知に帰省しては
ライブで唄うボクの隣ではやっぱりいつもヤツがベースを弾いていた。

あるコンテストでは大人に混じっての優勝を果たし、
四国・中国大会にも一緒に行き、

ボクが高知に居る夏休みや冬休みの間は、ほぼ毎晩のように家に来ては
一緒に当時のロック番組のVTRをすり切れるほど観たり、
原付きバイクにまたがって、屋台に飲みに行ったり、
ポルノ映画を観に行ったり。
当然ポルノ映画に「高校生割引き」はなかったけれど。

高校を卒業すると同時にすぐ、他のバンドメンバーと一緒に、
ベースと少しの荷物だけを持って、ボクの住む東京に上京してきたヤツ。
全員が当時ボクの住んでいたアパートのすぐ近くに引っ越して来た。
合い言葉は「マジソンスクエアガーデン制覇!!」。
それはニューヨークにあるのだけれどそんなの関係無い。

毎晩のように、ボクのアパートに集まり、練習するわけでなく、
ただただ高知に居た頃と同じように、みんなで酒を酌み交わし、
夢の話ばかりをしていたボクら。無口なヤツはいつも笑っていた。

それまでのコピーバンドを改め、オリジナル一本でライブをし始めるも、
なかなか客足は伸びず、次第にメンバー間というか、ボクとヤツとの
仲が悪くなり始めたのは上京してから2年の事。

88年・夏のライブを最後にバンドは解散。ボクはボクで、ヤツはヤツで
それぞれの夢を追いかけ始めて間もなく、解散してからまったく連絡の
無かったヤツが突然ボクの部屋に来て言った。

「俺、ベース辞めて高知帰る。正直、音楽より料理の方が好きになった。
 高知帰って調理師の勉強する。まだ他のヤツらぁには言うてないけど、
 オマエには一番先に言うちょかないかん思うてよ・・・。」

それから高知に帰って、ゼロから某寿司屋での辛い修行を積み、
ヤツは調理師免許どころか、フグの調理師免許まで取ってしまった。
そしてそこからさらに数年後、ヤツは自分の店を持つまでになり、
結婚もし、家も建てた。

ライブや私用で帰省しては、ヤツの店の暖簾をくぐるやいなや、
「腹こわさんもん喰わしてや。」と、いつも憎まれ口を叩くボクを、
ヤツは小学生の時のヤツに戻ったかのような、
毒気の無い照れ笑いで迎えてくれた。

商売も順調で、より多くの席数を確保する為に店の場所を
移した矢先、ヤツが病気になった。病名は肺ガン。
「ほら、高校生からセブンスターじゃなしに
 マイルドセブンにしときゃ良かったやろ?」
と、相変わらず憎まれ口のボクに、病院のベッドに腰掛けながら、
「アホか。もう吸えんわ。」と、淋しく笑うヤツ。

それからまもなく、ヤツは一度退院し、店を再開して、
再び帰省の度に店にからかいに来るボクをカウンターの内側から、
小学生の子分だった時の眼差しでチラチラうかがい、
またそれをボクがからかう、そんな日々もあり、
再び店を閉めたという知らせを友人づてに聞いてから、
半年以上が過ぎた今日の朝。

ヤツが逝ってしまった。勝手に。

ヤツに言いたい事は山ほどあるけれど、
今は、今はこれだけをヤツに伝えてくれんかね神様。

「哲也。オレのわがままに付き合わせてすまんかったね。
 けんどオレは楽しかったぞ。オマエと一緒に居れて。」

ほりゃ。オレとオマエのウタじゃ。_________「キラキラ」。