雑踏の隙間で

日本に一時帰国早々、
一昨日亡くなったKさんの通夜と葬儀の準備に参加。
まずは通夜と葬儀のBGM作りから始める。
Kさんが店や旅行先などで必ず聴いていたお気に入りの曲を
一曲一曲パソコンの中で順番に並べてゆく作業。

「これはちょっと五月蠅いんじゃない?」
そんなボクの問いかけに、
「いいのよ。静かなのばかりじゃ、来てくれた人が飽きちゃうでしょ。
 とりあえず入れといてちょーだい。」
と、Kさんが言う。
「あーはいはい。オレ、責任持たんからね。」
「アラ、アンタ責任なんて持てるの? 店の氷も持てないくせに(笑)。」
そんな彼のいつもの嫌味を耳元で聞きながら、
やっぱり五月蠅すぎる曲を勝手に外すボクと、
入れといてよ入れといてよと文句を言う彼。
この期に及んで死んだヤツが文句を言うんじゃない。
優しく見守れっつーの。

Kさんの奥方から遺影にする写真がなかなか決まらず困って
いるとの連絡を受け、BGM作業を一端中止し、外付けハード
ディスクの中から遺影に出来そうなKさんの画像を選ぶ。
「大丈夫? 一番いい男に写ってるの選らんでちょーだいよ。
 あーん、それダメ!! 床屋に行く前の日でしょそれ、ダメよ。」
「黙っててってば!! Kさんの画像なら山ほどあるんだから。」
彼の言葉を右から左へ受け流し、
たぶんボク自身の画像よりも多い彼の画像ファイルの中から、
ボクが良いと思った数枚をCDに焼いた後、
葬儀屋さんとの打ち合わせの時刻が迫っていた事もあり、
大急ぎでKさんの自宅に向かう。

___________結果、遺影の写真は、
彼が30年もの間、毎年行っていた沖縄・伊平屋島の定宿の
テラスで、ボクのミニ・ライブを聴いてくれている時の姿に、
背景をこれまた彼が毎年通い詰めていたバリ島での画像を
合成する事に決まり、そして、弔問客の為のお清め所には、
ボクが今年の5月に撮った、彼が自分の店で働いている、
客の誰もが知る普段の彼の姿を飾る事となったのだよ。

葬儀屋さんとの打ち合わせと、まだ連絡の取れていない関係者
への電話連絡を一通り済ませた後、奥方、それと同じマンションに
住む常連客Sさんと一緒に、近所の葬祭場に保管されいてるKさん
の亡骸に会いに行く。途中から、ボクの仲間で、Kさん家の近所に
住むHくんとFちゃんも来てくれた中、
「此処、黒く染めてあげないとね。いつも髪だけはちゃんと
 2週間に一度、床屋できっちりしてた人が最期に白髪じゃね。」
顔を少しだけ右に向けて眠る彼の冷たくなった額に手をかけ、
その白くなった前髪を撫でる。

病室で、「いいから、それ早く引っこ抜いてっ!!」と、
Kさんが大声で怒鳴った時は、正直、
「アンタ、本当は弱ってるフリしてるんじゃないの?」と、
こちらが思ったほどだけど、やっぱり死んじゃったんだね。
でもね、悲しくはないよ。だってホラ、最期の最期まで笑い合ったし、
あの日ちゃんと約束もしたもの。ね、Kさん。
だから、他のみんなには薄情者と思われるかもしれないけれど、
ホント、悲しくはないのだよ。

ただ、ふとした時に。
例えば、亡骸と面会した後、クリスマスを前に賑わう夜の新宿を
こうして一人で歩いている時。
誰かに電話をかけようと、携帯電話の電話帳をなぞる指が、
アナタの笑っている顔写真と名前が登録されたその場所で
一端止まりかける時。
このどうしようもない寂しさはいったいどうすればいいのか
わからないだけ___________________。