一寸の虫にも五分の魂

ソイツはたぶん、こんな夜更けにその堅い甲殻で覆われた体を洋服屋の
おばちゃんにモップの柄で何度も何度も叩かれ殺される為に、この島の
ジャングルの中で鳥や蛇やオオトカゲや野良猫や野良犬といった様々な
天敵から逃れながら生き抜いてきたわけじゃないだろう。

モップを振るおばちゃんの腕を制した後、店先の屋根に吊されていた
洋服にしがみつくソイツを自分の手に乗せ、物珍しそうに眺める見物客に
ひととおり見せた後、ビーチ沿いに生える大木の幹に放す。

太い幹の表面を星空目がけてのぼってゆくソイツをボクと一緒に
見送っていたオヤジが言う。
「オレが子供の頃はたくさんいたんだがなぁ。今じゃクアラ・ルンプールで
 一匹1500円ほどで売られてるほど価値のあるカブト虫だよ。」

放す前に言えよオヤジ____________________。


コーカサスオオカブト