生かされる者として

「こんな時に眠るように死ねたらどんなに幸せだろう。」と、
けしてそれは若い頃に思ったような破れかぶれ的な理由からではなく、
どちらかというと満たされた中で迎える最期の場面というべきか、
そんな事をふと想像するようになったのも、やはり自分が歳を
とったせいだろう。今回のパンコール島での滞在中、そんな場面に
何度も出くわす。
_________例えば。
コーラル・ベイの木陰でビーチチェアにもたれて波の音を聞いている時。

砂浜に座って夕焼け空を眺めている時。

宵の口、ノンさんの村でハンモックに揺られながら、閉じた瞼の裏で
子供達の遊び声を聞いている時。

それぞれ時刻こそ違うけれど、どれもそこに肌を優しくさするような
心地良い風が吹いている。

しかしながら、半端者は半端者なりに想ふ事も多々有り、
まだまだ生きねばならぬ責任というか、
穏やかに死ぬ権利がまだ与えられていないのだよきっと。
「そろそろコイツも止めねばならぬかねぇ。」
マラッカ海峡に沈む太陽が染めるその雲に、重なるように
浮かんでは消えるたくさんの笑顔を見送りながら、
指に挟んだタバコを砂浜に押しつける夕暮れ時_____。