ノンさんとボク

「ツカサがこの島に居られるのもあと少し。
 釣りがし足りないなら思う存分してから日本に帰れ。」

まだまだボートに乗ってくれそうな観光客たちの間を
ガソリンの入ったポリタンクを下げて砂浜へと降りてゆくノンさん。
そう言えば、いつかマレー人の若い学生たちからは通常の料金は取れ
ないと、格安の値段でボートトリップをして、後で他のボート屋仲間から
「そんな事してたらつぶれるぞ。」と笑われたり、島の子供達を無料で
乗せ、生まれて初めてのボートトリップにはしゃぐ子供達の笑顔に、
舵をとるノンさんの顔も嬉しそうだったり。

彼はけして商売が上手い方ではない。ボクの泊まっているホテルの
パパのような金持ちにはこの先なれそうもない。
選ぶ友達を間違ったかな、と皮肉を言うボクに、
それはオレも同じさと彼が笑う。

そして今日も______________。
団体客を乗せて走る他のボート屋たちの軌跡をまたいで、
ボクだけを乗せた彼のボートが夕日に照らされた沖を目指す。