アポロシアターに立つ日を夢見て

APOLLO THEATERで1934年から開催されている『アマチュア・ナイト』。
プロへの登竜門で、数々の有名アーティストがここから輩出された事でも
有名なそのイベントを観に、治安の悪さでは有名なハーレムに地下鉄で向かう。
ホラね、着いた早々、ボロボロのTシャツ姿の黒人オヤジやアンちゃん達が、
ラップでお馴染みのあの声で「タバコ持ってねーか?」だとか
「1$持ってねーか? 1$でいいからよ、メーン?」とか絡んでくるし。
メーン?じゃねーよメーンじゃ。その度にこちらも、ロバート・デ・ニーロ並みに
眉をひそめたオーバーな演技を交え、
「すまんね。これが最後の1本なんだよ。」などと余裕綽々たる態度で断って
はいるけれど、正直、心の中では「もうホントに勘弁してくださいよー。」と、
カツ上げに遭っている中学生にも似た心境なのだよ。

会場へ入る。其処では、イカした出演者には観客からの惜しみない歓声と
拍手の嵐が。反対に少しでも下手な出演者や、たとえ歌が上手くても、
イケ好かない奴には、たとえそれが妊娠9ヶ月の妊婦であろうとなかろうと
容赦無いブーイングが会場中に飛び交い、最終的な審査も観客の歓声の
大きさで決まる。もしオイラがあそこで唄ったら歓声かね?それとも?

で、結果、今夜の優勝者はジャグリングのアンちゃんだったわけで、
アポロシアターを出て再びヘイメーンオヤジやアンちゃんたちの呼びかけを
ロバート・デ・ニーロでかわしながら歩く駅までの
帰り道、「よしっ、日本に帰国したらまずジャグリングの練習をしよう。」と、
そんな浅はかな考えを思いめぐらす雨上がりのハーレムの夜_______。