深夜のヤケ喰い

「今日はもう限界やろ?」
というアレンジャーでもある西込氏の言葉に壁に掛かった時計を見ると
深夜1時。かれこれ8時間はぶっ通しで唄い続けていたらしく、最後に
録った自分の声を確認してみると、馬鹿正直なマイクを前に、さすがに
気力だけでは腹筋や背筋、そして喉の疲れは隠せないようで、
「そうやね。ごめんよ、遅くまで。」と、ヘッドフォンを外しブースを出た。

自分が描くそれは、すなわち『誰かに喜んで貰えるカタチ』であると
素直に思えるようになってから、音楽というものが一段と楽しくなった
のも事実であると同時に、一段と高い山のようになったのもこれまた
事実なわけで、レコーディングの度に味わう『其処に辿り着けない
自分の力量不足』の味は、とてつもなく苦くて酸っぱくて、いっその事
すべて吐き出して終わりにしてしまおうかと、この歳になっても思うのだよ。

「おぅっ、辞めるんなら辞めてしまえ! ピッチャー交代や! ヘタクソ!」と
野次を飛ばす柄の悪いオッサンを、牛ハラミ弁当と牛カルビ弁当で
ようやく黙らせた深夜3時___________________。