高知の酒場にこの人あり

幼い頃から片足に障害がある彼と初めて会ったのは、高校に入学して初めて教室の自分の席についた時で、丁度、名字の「あ」から順番に並べられた机の前と後ろ。ただそれだけの関係でしかなかったボクと彼。狭い高知の街でお互いの姿をみかける度に、彼は今とまったく変わらぬ笑顔で「トミオカくん、またデートかえ?」と片手を上げて挨拶をくれ、ボクはボクで咥えタバコのまま「Tくん、また映画かえ?」と挨拶を交わす程度でしかなかった彼とボクが数十年経った今でも付き合いがあるのは不思議と言えば不思議なわけで。

さて、そんな彼は立派なバーテンダーであり、昨年には長年働いたBarを退職し念願の自分の店を開店。今回は、某大手酒メーカーが主催するウィスキー蒸留所見学の為に上京したわけだけれど、ここ数年で欧米のセレブ達の間でテキーラが流行っている事に目を付けた金の匂いに敏感な彼は昨年テキーラマエストロなる資格も取得し、少しでも多くテキーラを知ろうと、東京滞在を延ばし、経費節約の為にホテルも取らず、自分の経営する店の女店長(こちらも立派なバーテンダー)と二人でボクの家に転がり込んだのが本日正午。

そこから道案内役のボクを交えた三人での珍道中が始まったわけで、目当ての代官山のメキシカン・レストランに行けば定休日で途方に暮れ、そこから渋谷まで、炎天下の山手線沿いの道を、片足に障害のある彼を気遣う事もせず徒歩で戻ったり、夜は夜で六本木に向かう電車の車中で、若者に席を譲られ恥ずかしそうに座る彼を、女店長と二人で遠巻きに見ながらクスクス笑ったり、いや、本当は席を譲ってくれた見知らぬ若者の方が正しいのであって、ボクらの反応こそ人間として間違っているのだけれど、ボクらは彼を昔から障害者として見てはおらず、それは彼が一人ですべて出来るというか、そこら辺の健常者より遙かに分厚い人生、もっと深く言うと、そこら辺の普通の人間より遙かにえげつない人生を経てきているのを知っているからであり、高校生の時に見せていた笑顔と変わらない笑顔が今も出来るのが逆に不思議なくらい、ある意味不気味な男なのだよ彼は。

なにはともあれ、そんな彼と女店長とボクとの三人の
笑いの絶えない短い夏の合宿生活が始まった火曜日______。

アボカド嫌いやのにメキシコ料理をたらふくご馳走される。