その屍を踏んでゆけ、いや其処ぢゃない

「ボクも、私も旅をしてみたい。」と誰かが言う。「じゃあ今すぐすればいいじゃない。」とボクが言う。その度に「でも今はコレをしなければいけないので・・・。」という返事ばかりが相手から返ってくる。そんな事言ってたらいつまで経っても旅なんて出来やしねーよ、という思いを涼しい愛想笑いで誤魔化す。

何かを犠牲にしなきゃいけない事を彼らは怖れる。「しなきゃいけない事」を掘り下げてゆけば、最終的に自分自身の欲と向かい合わなければならず、尚且つ、その欲を断ち切れるかどうかが、旅に出る人と旅に出られない人の分岐点となる。と、かくいう自分も若い頃から適度の放浪癖はあったものの、「しなきゃいけない事」に囚われて、海外に出るのがずいぶんと遅れた。今になってもっと若い頃に出ていればという己を悔やむ素敵な場面がたくさんある。だからこそ、旅をしたい若者には躊躇う事なく出て欲しいと素直に思う。

「何の為に」だとか、旅費の元を取るような小ちゃな考えは捨てて、好奇心ひとつだけ持って旅に出たまえ若者よ。ちゃんと答えは後からついてくる。犠牲にしなきゃいけないモノも含めて。得るモノが大きいほど失うモノも大きい。どちらも確実に後からジンワリ効いてくるので、後になって悔やまない事が全てにおいて大切なのだよ。

先日、ご年配の日本人の方をバイクに乗せた際のその方の言葉が忘れられない。
「定年まで懸命に働いて、退職したら行きたい所に行くんだーって旅を始めたんですけどね。いかんせん、体のあちこちにガタがきていて、こんな事だったらもっと早くにって、毎日痛感してますよ。」
大丈夫です。アナタは日本の高度成長の柱となり、その分美味しい思いもしてきた事でしょう。旅に関しては我々後輩にお任せください。さらに大きなステップでアナタの屍を越えて行きますのでご安心を。もちろん、そんな言葉は口にはしなかったし、体のあちこちに持病を持ちながらも中学生にも満たない英語力と愛想の良さと図々しさで世界を渡り歩いているその大先輩に敬意を込めて、涼しい笑顔でアクセル全開90km。ノーヘルの額に風を受けながら急な坂道を下るタートル・ベイ。

さぁ若者よ、俺の屍を越えてゆけ‼︎
まだまだ簡単に越えさせる気もさらさらないのだけれどね、あっかんべー、なんぞと言ってるうちに、帰国予定日まであと10日___。