その笑顔に包まれて

____島一番のビーチボーイが日本に帰るから女の子たち全員が泣いているのさ。
開け放ったドアの外の雨を指差しながら言うボクの言葉にみんなが笑う。

滞在最終日の夜は、ボート屋家族親戚を始め、仲の良い友人たちを島の中華レストランに招き、全てボクの奢りでご馳走するのが毎年の通例儀式のようになっている。所謂、「お別れ会」みたいなもので、今回は少し趣向を変え、ボート屋主人の兄宅の庭で盛大なバーベキューパーティーをやる事になっていた。ところが、夕方から降り出した雨は夜になっても一向に止む気配を見せず、最後のイカ釣りを終えビーチから帰って身支度を整えたボクは独りホテルのレストランで、其処から遠く離れた村へ行く方法を考えあぐねたり、そもそもこの雨じゃ今夜のパーティーは中止だろうな、と半ば諦めていた。其処にこの島で一番仲の良い友人がずぶ濡れになりながらバイクでやって来て____。

「さぁ最後の夜を楽しんでこい。」自分の車のキーをこちらに差し出しながら、笑顔で見送ってくれるホテルのパパ。「食べきれなかったらお土産で持って帰って来てね。」と冗談交じりで言うスタッフたち。そう、この2ヶ月半もの間、ボクはこうしてみんなに助けられ見守られてやってきた。

友人の運転する車でホテルを出て20分後、村に到着。予定会場となっていた庭先の屋根付きガレージに置かれたバーベキューコンロの上で骨付きの鶏肉を黙々と焼くボート屋主人・兄に促され、屋内に入ると・・・。
すでに焼かれ照り焼き風のソースがかけられた物凄い量の鶏肉の他にもこれまた凄い量の焼きヤギ肉、大釜で炊かれたご飯にビーフン麺、デザートにジュースと、中でもボク大好物の牛肉入りスープの鍋の中には、漫画でよく見る「原始人が食べているマンモス肉」のイメージに近いほど巨大な、牛の太ももの骨がそのまま付いた肉が幾つも見える。種類と量の多さはさながら先日村で行われた結婚披露宴にも迫るほどで、これを朝からみんなで用意してくれたのかと思うと、つい感涙の涙を流してしまいそうにもなるのだけれど、生憎そういうキャラではないので、「今日は誰かの結婚式かい?」とトボけてみせるボクの言葉にみんなが笑ってくれる。

昨日1日、わざわざ島を出て本土の町まで大量の食材を買い出しに行ってくれ、そしてそれを焼いてくれたボート屋主人ノンさんの兄サムを始め、それぞれを調理してくれた家族親戚たち、そして何より、車なんぞ持っていない人が大半を占めるこの島で、この雨の中を遠くからバイクで来てくれた友人たちの心意気が嬉しい。嬉し過ぎて思わずサムに食材代(400RM=約1万3千円)払うのを忘れてしまいそうになるも、毎回最終夜はボクがご馳走するのが自分で決めたルールなので、ソレはソレコレはコレ。

せっかくの最後の夜に降る雨を残念がってくれるみんなを前に、おどけながら言った文頭のボクの言葉に対し、笑う者あり野次る者あり。そんなみんなの笑い声と笑顔が雨音を消してくれるパンコール島滞在最終夜____。