遠きあの陽のB♭

32年のブランクは、ボクに様々な事を考えさせる。
どれほど自身の身体が老いたかという事実や、今ほど音楽も人も愛せていなかったにせよ、今よりもすべてだったそれに散々振り回されてきたあの頃の甘酸っぱい思い出たち。

楽器を大切にする事さえ知らぬ浅はかな若者が手入れを怠ったせいで所々ラッカー塗装が剥げている上に、1度リハーサルへ持って行った際に不注意で落とした結果、管の一部が割れ、その部分にはこれまた浅はかにセロハンテープがグルグルと巻かれ、今ではそれも剥がせぬほど同体化してしまっているせいか、はたまたあの頃よりは確実に体力が落ちているせいか、本来の音色を鳴らしきれないそのトランペットにミュートを付け、一番音の漏れないであろう自室に籠もって、32年振りに割と真面目に吹いているには吹いているのだけれども。

いかんせん32年のブランクからは『後悔』の他には何も生まれず、うーんこれでは近所に豆腐屋と間違われてしまうという心配から長い時間吹いているわけにもいかず、そもそもちょっと吹いただけで眼球も血管も破裂しそうになる圧迫感と息切れに己の老いを痛感し、何度も途中で挫けてリビングに逃げだしてはそのままソファに寝転び「誰にでも簡単に吹けるトランペットが欲しいよぉ。」と、ドラえもん頼みののび太みたいな事を切望してもドラえもんは居ないので、やがて諦めて再び自室に戻って行くという、このチャレンジと絶望の繰り返しをアナタにも見せてあげたいほどなのだよ。ライブも近いのに歌もギターも練習せずにトランペットを吹いているこの一見無駄な時間を。

え?なんでかって? そりゃ次回のバースデーライブで吹きたいからですよ。聴かせたいとかぢゃなく、あくまで自分が吹きたいのだよ。ま、思いついたのもつい数日前なので、そもそも音が鳴ればの話ではあるけれども____。