居るはずもない天使を探して

季節外れの大型台風が日本に近づく週末。
秋深まる新宿の夜に、靴下も履かずに家を飛び出した男が一人。

子供の頃は親に叱られ、子供心に稚拙ながら「不条理」を感じた時はよく家出をしたものだ。と言っても同じ市内に住む親戚の家に転がりこむのが常で、元々が放浪癖のある子供だったので、突然訪問された親戚の方も「いつもの事」ぐらいにしか思っておらず、後になって親が迎えに来てから事情を知るといった具合。ボクはボクで、さっきまで従兄弟たちに見せていた笑顔は何処へやら、親の顔を見た瞬間に再びふて腐れた顔に戻り、その顔のまま迎えに来た父親の車の助手席に乗せられるという日常が其処にあった。
思春期になるにつれ、家出の回数こそ減ったけれどその距離は伸びてゆき、市内から市外へ、そして県外へ。その理由は常に、他人から見ればどれも稚拙と笑われるかもしれない、でも本人は至って本気の「不条理に対する反発」であった。

話を元に戻してここは新宿。靴下も履かず、Tシャツにヨレヨレのブルゾンを羽織っただけの「みすぼらしい」格好をした中年男に、突然転がり込む彼女の二、三人作る甲斐性も無いわけで、またあったとしても転がり込んだ先で理由を話した後、再びその場所を出て行かざるを得なくなるのは火を見るより明らかである。財布こそ持っては出たものの、こんな格好ではビジネスホテルの従業員も、さきほど執拗にこちらを見ていたパトロール中の警官二人連れと同じく、犯罪者か何かみたいに思うに違い無い。

_____さて、何処へ行こう。
一人で深夜レストランに入るのすら苦手な男に、この街は冷たい。
突然フラッと帰るには郷里は遠く、またこの時間では帰る術も絶たれているし、郷里に帰ったところで、入稿期限が目前に迫る作りかけの印刷データが映ったままのモニターもパソコンもつけっぱなし。
他人から見れば稚拙な「不条理に対する反発心」と、昨日から症状の出始めた痛風を奥歯でグッと噛みしめながら、嗚呼、自分がもっと若くてピチピチしていれば此処でガンガン働けるのにと、淫靡なネオンに視線彷徨う中年男の価値なんぞ、所詮は客引きたちのカモでしかない新宿の夜____。