センチメンタル・ジャーニー

ボクが今居るホテルが建つ前、この土地には大正モダン建築を感じさせる洒落た古い病院が在り、そこにはボクと同じ名字を持つ院長先生がおり、病院の建物の裏手にある保育園に通う、よく腕の関節が抜ける子供で、その度に保育士に付き添われて此処に運ばれていたボクを、同じ名字の院長先生は「またツカサかよ。おまんはほたこえ過ぎじゃ(オマエは暴れ過ぎじゃ)。」と、皺くちゃの笑顔で諭しながら、関節を戻してくれた。

心臓を患った祖父が此処に入院したのは、ボクが丁度小学生に入学する頃で、入学前の休みを利用して見舞いに行った先の病室で、「明後日の夜、此処に泊まりに来るきね。これにパジャマも入れて来るきね、待ちよってよ。」と、買って貰ったばかりの黒いランドセルをベッドの上の祖父に見せながら約束を交わした翌日の晩、容態が急変した祖父は約束を破った事をボクに謝りもせずこの世を去った。

_____ようやく泊まりに来れたちや。

高知城側ではないこの部屋の窓からは、祖父の息子、つまりボクの父親の墓がある山がすぐ目の前に見え、祖父、父、そしてボクと、博打好きな三人の魂が夕暮れに集うホテルパックな帰省初日。

BGMはビートルズのリンゴ・スターのアルバムより『センチメンタル・ジャーニー』____。

日記