1日の始まりの場所

此れを書くのをサボって気づいたら早2月。パンコール島滞在も残すところあと20日余り。
急いで帰ってもこれと言って急ぎの仕事があるわけじゃなし、待っているのは3月15日提出期限の確定申告用紙とレシートの束なわけで、ボクの収入欄を見て鼻で笑いそうになった税務署員に何の義理立てもないのだけれど、それでも帰らにゃならんかね。

毎朝、自分のシャレーのすぐ目の前のレストランから聞こえる朝の喧騒で目が覚め、ベッドから起きたままの格好でタバコとiPadを片手に朝食を摂るため部屋を出るのだけれど、日焼けし過ぎて真っ黒な顔と、爆発した実験室から出て来たかのようなボッサボサに寝癖のついた髪の男が薄目で表情をしかめながら突然ブュッフェの向こうから現れるもんだから、欧米人を始めとするほとんどの客が一様に驚き、こちらはこちらで不審者と思われたくないため、寝癖頭としかめっ面のまま「グッモーニン」とぶっきら棒に挨拶をしてレストランの隅のスタッフ用テーブルに着く。
同じテーブルで朝食を摂っている若いスタッフが「身支度を整えてから出てくればいいのに。」と、こちらも見ずに言う言葉に対し、「歳を取るとどうでもよくなるもんさ。」と、こちらもしかめっ面でiPadの画面を睨みつけながらタバコに火を点ける。

外が見渡せるレストランで、iPadの画面と椰子の木の間を飛び回るツバメたちの向こうに広がる青空とを交互に見ながらパンを囓りコーヒーを飲む。時折、海に向かう前の道を通る観光客が、柵越しに寝癖頭でパンを口に咥えたまま空を眺める男を物珍しそうに見ては通り過ぎる、いつもと変わりない1日の始まり______。