新宿2丁目の少年

____やっと来られたよ。

東京のボクの親代わりでもあり良き友人でもあった新宿2丁目のマスターが亡くなってこの冬で5年が経とうとしているのに、一度も墓参りをした事がないのには自分なりの理由があり、彼の魂は別に此処だけにあるわけでもなく、現在は沖縄に住む奥方と共にあったり、ボクの自宅のリビングの遺影の傍にあったり、仲の良かったバカマツの宮様の傍にあったり、思い出を共有する全ての人の胸の奥に今でも優しく貼り付いていて、人は生きていようが死んでいようが誰にも思い出されない事ほど寂しい事はないのだから、時折その人を思い出す事こそが大切なのであって、ボクからすればお墓も故人との思い出を辿るひとつのツールに過ぎないわけで、ボクを含めこれだけたくさんの人に思い出して貰える彼に、そもそもお墓自体必要無いんじゃないかと。

ただ、今回、此処まで来て良かったと思えたのは、彼のお墓のある高台から彼が生まれ育った故郷のその長閑な風景を眺めながら、店に二人きりの時にカウンター越しに彼がいつもボクに話してくれた彼の少年期の思い出の中にタイムスリップをしたような感覚を覚え、この湖の傍の静かな町から独り東京に出てやがて『柏木 和美 (杵屋 勝力也)』と成って行ったその少年の背中を見送った___。