片道切符をポケットに

はーちじぃ丁度のぉー♪ あずさ2号でぇー♪
私は私は貴方からっ 旅ぃ立ちぃますー♪

という少年時代の歌謡曲に感化され、無理して早起きをしてホテルをチェックアウトして松本駅まで行ってはみたものの、松本発の『あずさ2号』はとっくの2時間前に出てしまっていて、ガッカリしながら8時丁度の『スーパーあずさ6号』の自由席に身を沈め、小一時間ほどは南長野や山梨の風景を楽しんでいたのだけれど、そこから意識を失い、再び意識を取り戻した時は電車はもう阿佐ヶ谷辺りで、意識を失う前とはすっかり違う窓の外の景色に「やっぱり東京はいろんな意味で異常だな」と、上京したばかりの頃にいつも感じていた田舎者特有の違和感というか、ある種のハングリー精神というか、上手く表現出来ないのだけれど、長い東京暮らしですっかり忘れていた感覚がふと蘇った時間。

そうだった。少ない予算の中、JRの青春18切符をやりくりしながら、高知を出て東京を目指したものの路線を間違え、何故か野宿する羽目になった夏の長野・塩尻駅で、早朝ベタベタになった顔を仲間たちとホーム隅の水道で洗っていたあの高校生は、帰りの切符も買おうともせず、まだこの大都会にいたんだなと____。