寂しさと歯がゆさに夜は明けて

彼女は声が大きく、やっぱり大きな声でケタケタとよく笑い、やっぱり大きな声で家族を叱りつける、要するに感情の激しい人だった。
南の小さな島の小さな集落のその奥の方で、島の友人家族が用意してくれる晩ご飯を庭のハンモックに揺られながら待つボクの耳には、そんな彼女の声がよく届き、また、独りで暇を持て余すボクを見かける度に、やっぱり大きな声で「ツカサ、お腹は空いてないかい? 果物ならすぐに容易出来るから待ってな。」とボクを気遣ってくれた彼女。

ボクの家族同然の友人でマレーシア・パンコール島で暮らすボート屋主人・ノンさんの実妹の彼女もまた、ボクにとっては家族も同然である。そんな彼女が亡くなったという知らせをノンさんの息子から電話で聞いた数時間前。一昨日、たまたま開いたFacebookで彼女の容体は知っていたので、こんな夜更けに常識のある彼が連絡をよこすのは、たぶん、と嫌な予感はしていた。
電話の向こうの彼に「原因は?」と問うも、彼のその返答を理解出来るほどのマレー語力は今のボクにはなく、また病名を知ったところで彼女が生き返るわけでもないので、其処は気にしていない。気にしていないのだけれど、今まさに新型コロナでマレーシアへの一般人の渡航も禁じられている現在、遺された家族・親戚らと一緒に、彼女とのたくさんの思い出話をしながら彼女を見送ってあげられない歯がゆさで頭を激しく掻きむしりたくなる。

リザ、イスラム教ではアラーのところに行けるんだっけ。何かと問題を起こす長男の事とか、脳性麻痺の次男坊の事とか、何かと心残りだろうけれど、どうか安らかに眠ってくれ。こっちはアンタのやかましい「ツカサ! ツカサ!」を聞けなくなって本当に寂しいけどさ___。