焦げ臭さの残るその場所で

「子供に"お父ちゃんの店が火事になったき今年はクリスマスケーキも買ぅてくれんし、お年玉もくれん"言うて泣かれたあげくにグレられても厭やろ?」

隣店からの延焼被害で当面営業不可能となったUくんのポケットに、自分でもちょっと無理した感の否めない額の見舞金をねじ込んだ後、消防の放水で濡れたレコードを一枚一枚ジャケットから取り出し、それぞれに新聞紙を被せてゆく作業を手伝いに駆けつけてくれた方々と一緒に手伝うも、数千枚にも及ぶその膨大な量の数に気を失いかける。

「保険屋が気持ち良ぉ支払えるように、今度はこっちから火ぃ出しちゃろか? そしたらUくんも諦めがつくろ?」
「そのうちオマエん家も燃えらぁや。楽しみや。」
こんな窮地に立たされてもそんなキツイ冗談を言い合うボクとUくんの関係を余り知らない、Uくんの店をこよなく愛してくれている人たちには不快な思いをさせてしまったかもしれない。

表だっての支援は、Uくんや彼の店を愛してくれる常連さん始め、多くのミュージシャンの方々にお任せするとして、普段から斜に構えた人間であるボクは自分に出来る事を胸に、報われぬ事も多かれどそれでも諦めずに頑張っている仲間がちゃんと報われる方向に向かうよう、その溝を影でゴゾゴゾとひいてゆこうと、首をすぼめたジャンパーの襟元に染みついた焦げ臭いその現実を嗅ぎながら乗り込んだ冬の夕闇・中央線___。

日記