退院おめでとう

生活臭が染みつき過ぎてくたびれた
ダウンジャケットをクロークに預け、
スタッフが引いてくれた椅子に腰掛ける。
手渡されたメニュー横に書かれた値段に、
「この料理一品だけで、みんなでファミレスで
 腹一杯飲み食い出来るやんか。」などという
貧しい感想を喉元でこらえるのに必死になる。

新宿2丁目の友人のささやかな退院祝いに招待された、
新宿ヒルトンホテル内の某中華料理店での一コマなのだよ。

蟹肉入りのフカヒレスープを始め、
前菜からデザートまで、
料理はどれも美味しかったのだけれど、
自分の中のナンバー1は『ジャスミン茶』(アイス)。
『プーアル茶』も頼んでみたけれど、
あの『ジャスミン茶』の香りに勝るモノ無し。
と、ここまで書いて、もしもあの『ジャスミン茶』が、
市販のペットボトルの物だったらどうしよう。

食事を終え、友人の一人が宿泊している部屋に入り、
みんなで休憩したのだけれど、部屋の調度品も立派。
幾つか持って帰ってやろうかとも思ったのだけれど、
たとえ高級ソファを持って帰ったとしても、
我が家に置く場所も無いので止めた。

部屋から1階のバーに移動。
女性ボーカルとピアノ、ウッドベースの3人が奏でる
ジャズナンバーの数々は、
決して耳障りな域に達しないBGMで、客は銘々が
自分の会話を楽しみながら聴いているのだけれど、
ミュージシャンの悲しい性だろうか、
自分は聴き入ってしまうのだよ。
「あのボーカル上手いなぁ〜。」だとか
「そうか。そこはそういう持って行き方も
 アリやんね〜。」だとか
「あっ、ピアノの人。今一瞬困った(笑)。」だとか。
 
楽しい時間はあっという間に過ぎ、
ホテルの前でみんなと別れ、
満たされた腹を落ち着かせるには
丁度良いホテルから自宅までのその道を歩く。

__________いつもより少し大きな歩幅で。