カウントダウン

パンコール島滞在も残すところあと3日となり、道やビーチで知り合いに会う度に其れを告げたりしながら皆と名残を惜しむ…なんて事はせずに、今日もイカ釣りの為に小型ボートを強奪し沖に向かう。

でも、そんな僕に対し普段なら文句や嫌味を言うボート屋主人もビーチボーイ仲間も、旧正月が終わった日辺りから、言いたいであろう言葉を抑えてくれているのは、残り少ない日々を好きにさせてあげようという彼らの思い遣りがこちらにも伝わっては来ている。其処を敢えて遠慮もせずに「客も居ないし借りてくよ。」と、裸足で釣竿片手にボート屋テントを背にするボクはボクで照れ隠しのつもりなのだけれど。

今日も思う存分にイカを釣り、ボートを浜辺に帰し、傍で砕ける波を容器ですくってはボートのあちこちにこびり付いたイカ墨を擦り洗い流した後、大きなため息をつきながら釣竿とタモ網とイカの入った容器を提げて浜辺から海岸通りへの階段を上り、途中土産屋のオバちゃんたちの「1kg売ってよ。」という声に笑顔で頷きながらボート屋のテントに戻り、知り合いの店からビニール袋を貰い、それにイカを1kgずつ小分けにし、潮水や潮風の付いた釣竿や用具を水道水で軽く洗い、小分けにしたイカと現金RM15(約450円)との受け渡しをあーでもないこーでもないと文句や冷やかしを笑顔で言い合いながら済ませ、テントの下に戻ってタバコに火を点け、疲れ混じりのため息にも似た大きな息を煙と一緒に吐き出す、昨日と一昨日と、いやずっと前から変わらぬ日常のリズム。
ただ、いつもと少しだけ違うのは、タバコを吹かすボクの元に、母親の運転するバイクでわざわざやって来てくれた子供たちが照れ臭そうに差し出したお別れの手紙。


少しずつ別れの時が近づいている_____。