その愛、姫と家来の主従関係にも似て

今日もコタツの中以外はやっぱり寒いので、南の島の思い出に肩までドップリ浸かって温まろう。

彼女が食べる為のひまわりの種の殻を口で割り、取り出した実のそのひとつひとつを彼女の前に差し出すボクと、そんなボクの行為に礼を言うわけでなく、ただ穏やかな笑顔をその実に投げかけた後、それを口へと運ぶ彼女。海岸からの風が心地良いその食堂の軒先で、そんな彼女の笑顔に3割、道を挟んだ向こう側の自分が手伝っているボート屋の様子に3割、こんな旅先で思い出すアナタの横顔に3割、すぐ傍の席で食事をする可愛い子ちゃんに1割と視線を散らし作業の手が止まりがちなボクに、彼女はボクの名前を呼んでさらなる催促の仕草を見せる。その都度、ボクはひまわりの種の殻を犬歯で割り、中の実を彼女の小っちゃなその指に渡し続ける。

食べるのにひととおり満足した彼女を建物の脇に設置された洗面台まで連れて行き、蛇口まで背丈の足らぬ彼女を片手で抱きかかえ、もう一方の手で彼女の手を洗う。再び元居た席に彼女を座らせ、道を渡りボート屋に戻ろうとするボクの後方で、ボクの名前を呼ぶ彼女。振り返れば、観光客やバイクや車が行き交うその道の向こうで、椅子の上に立ち、さっきよりも3割増しの笑顔でこちらに手招きをする彼女。その笑顔についついほだされて今渡った道を再び横切って彼女の元に戻る事もしばしばあり、まだ何かご用?と彼女に問うと、彼女は黙って自分で剥いたボロボロのひまわりの種をボクにくれようとする。ははっ! 有り難き幸せっ! その後でまた彼女が満たされるであろう分の殻剥きをさせられるわけなのだけれど。
母さん、オナゴの笑顔はやっぱり怖かです。

あと、20年もすりゃあボクのガールフレンドさ、と強がるボクに、食堂を営む彼女の家族やビーチボーイ仲間達は、車椅子でも押してもらうのかい?と笑い、その言葉に乗っかるようにヨボヨボの爺さんの真似をするボクの仕草に、また一同大笑い。そんな笑い声の理由さえ解っていない彼女がボクの名前を呼ぶので、彼女の方を振り向くと、やっぱり、穏やかな笑みを目元に浮かべ、まだ殻の剥けていないひまわりの種を一粒こちらに差し出している。御意____。