淡い恋の話ーバレンタイン・デー編ー
「ツカサくん。はい、これ。」
別に「好きです」とかの告白もなく、
まるで教室に忘れて来た筆箱を
代わりに届けに来たように、
その子はチョコレートの入った箱を自分に渡し、
「じゃあね。」と笑って、教室の方に戻って行った。
下校チャイムが鳴る小学校の下駄箱付近での出来事。
帰り道。
冷やかしと羨む声を浴びせる男友達に、
わざと自慢気な態度をとってみせるものの、
内心では、さっきの彼女の素っ気の無さに
「義理チョコかぁ〜…。」と、落ち込む自分。
実は彼女のコトが好きだった。
それから2ヶ月経った新学期_______。
彼女は転校して行った。
その晩遅く、仕事から帰って来た母親が
「○○ちゃんのお母さんと話す機会があってね___。」
と、何故かその子の話をし始めた。
「○○ちゃんね、家に帰って来たら毎日
アンタのコトばかり話してたらしいよ。
バレンタインの時もね、
今まで男の子にプレゼントなんかしたコトないほど
おとなしい子が、どうしても渡したいって、
お母さんとケンカになったんやってよ。
アンタのコト好きやったんやねぇ(笑)。」
「で、○○ちゃん、どこ行ったん?」
母親の話によると、彼女は気管支に持病を持っていて、
市内よりももっと空気の良いトコロに転校して行った
らしいのだけれど、結局その場所も言わず仕舞いだった。
今考えるに、その当時の高知市内も結構空気は綺麗だったし、
そこよりも空気の綺麗な所に引っ越さなければいけないほど、
彼女の病状が悪かったのか。
それとも、大人たちにしか解らない事情が
もっと他にあったのかもしれない。
天然栗毛色のショートカットの斜め上を
いつもチョコンと一カ所だけ結び、
笑うとその色白の頬が少しだけピンクがかる彼女。
毎年、この日になると彼女のそんな笑顔を思い出すのだよ。
___で、今年は見事に0個だ。哀れむなかれ!
もう義理チョコなんぞは要らん! 本命全部受け止めちゃる!
わっはっはっ! と笑っているうちに日付が変わった