干物大臣

沖縄・伊平屋島2011-2日目・後半-

友人Fは刺身が食べられない。
生臭さが苦手と本人は言う。
生の魚に触るのも、手が魚臭くなると言うなんとも乙女チックな
理由から、釣りの時には専用の革手袋を着用する友人F。
だったらオマエは何が喰えるの?と彼に問うと、
ハゲ(カワハギ)の干物は喰える、というか、むしろ大好きじゃ、と
普段言葉少ない彼が言ったその発言をボクが見逃すワケがない。
じゃあオマエ、伊平屋に言ったら自分でカワハギの干物を作りや。
釣るのはオレに任しちょけ。よし、オマエを「干物大臣」に任命する。
と、今時の小学生でもしないような子供じみた会話を新宿2丁目で
交わして早3ヶ月。
中野の○忠でわざわざ干物用の干しカゴを買い、島まで送った彼。
仕方ない。それが干物大臣の使命なのだから。

そして本日夕方。田名(だな)の漁港からホテルに帰ってきて、
みんなが日中にかいた汗をシャワーで流している頃、
食堂裏の生魚専用調理場を借りて、シャワーも浴びられないまま、
今日の釣果の中からモンガラカワハギだけを選別し、
生臭いカワハギを素手で一匹一匹、一人黙々とさばく友人F。
仕方ない。それが干物大臣の使命なのだから。

頭を切り落とし、皮を剥ぎ、内臓を取り出し、美味とされている肝を別に取りだし、
え?肝捨てちゃうの?え?生臭いから?いやいや、肝こそ旨いでしょーよ!
身だってホントは干物にせんでも、この鮮度だったらフグと同じくらい旨いのに。
と、喉もとまで出そうになったが、彼がヘソを曲げ「干物大臣」を辞任されては
こっちに面倒臭い事が廻ってくると思ったので言うのをやめた。

さて、あとは塩水に小一時間浸けて風通しの良い場所で干すだけですね干物大臣。
え?そんなに塩を入れるとしょっぱくなりはしませんか?干物大臣。
などと、彼の背後で口だけ出すボクを尻目に黙々と作業をこなす干物大臣。
ようやく一仕事終えて、シャワーを浴びるために部屋に戻る彼の後ろ姿と、
塩水に浸けられたカワハギの身を交互に見ながら、彼に聞こえない声で言う。

「お疲れさまでした干物大臣。
 腹をこわすのが嫌なのでボクは絶対食べませんけど。」__________。