静かな時間の中で

某大学病院の病室。
痩せ細った体をベッドに横たわらせ、
眼力を何処かに忘れてきたかのように、
虚空の一点をみつめる彼は、
前回電話で話した時よりもはるかに弱々しく
なってしまった声でボクに言う。

「このMP3プレーヤー・・・壊れちゃった・・・みたいなの・・・。
 新しいの・・・買ってさ・・・、音楽・・・入れて来てくれる?
 複雑なのは・・・イヤよ・・・。ボタンの・・・少ないの・・・・。」

「了解!! 明日にはちゃんと入れて持ってくるね。」

「ツカサ・・・。アンタ・・・いつも・・・、
 返事だけは・・・いいけどね・・・。」

「あーはいはい。それより簡単にくたばられたら、こっちも
 マレーシア行ってすぐ帰って来なきゃいかんなるし、
 頑張ってよ。」

「解ってるわよ・・・。
 それより・・・早く・・・買ってきて・・・ちょーだいよ・・・
 ・・・M・・・P・・・3・・・。」

病室に居る誰もが笑う。
この期に及んでも、ボクらは笑い合っている。
夕暮れ色の空に東京タワーが浮かぶ日曜日________。