ゲロゲロフェリー

マレーシア本土側のメルシンからティオマン島へのフェリー乗り場の待合所。
人々の会話も聞こえないほどトタン屋根を激しい雨が打ち付ける。
2ヶ月ほど前、エンジントラブルで100人余りが海に投げ出され、
6人もの死者を出したという「いわく付き」のフェリーは、
普通なら欠航してもおかしくない気象状況の中、
たくさんの客を乗せて午前10時過ぎにメルシンの港から出航した。
船室のシートを埋める客のほとんどが島へ戻る島民で、
こんな雨の多い時期に、島に渡る「ヘソ曲がり」な旅行者は
さすがに少なく、ボクを含め10人程度しかいない。

出航して間もなく、船員がやって来てビニール袋を配り始める。
船酔い用の吐瀉物を入れる為のそのビニール袋に
客席のあちこちからたくさんの手が伸びる。
そして数十分後・・・。
港を出航したばかりの時には、大きく揺れる船室で、
まるで遊園地のアトラクションを楽しむかのように
はしゃいでいた子供も、サングラスを頭にかけて、
隣の彼女に粋がってみせていた若造も、
誰もかれもがそのビニール袋に顔をうずめている。
その悲惨な光景と微かに匂ってくる吐瀉物の香りに、
船の揺れには強いという自負を持つボクまでもさすがに気持ち悪くなり、
隣席に置いてあった自分のリュックにもたれながら目を閉じて、
パーカーをマスク代わりに鼻と口にあて、
日本から持参したMP3プレーヤーのヘッドホンを耳深く指した。

ゲロゲロ大会の続く周囲から自身の五感を完全に遮断した、
そんなボクの耳の奥に流れてくる曲は、
松田聖子で『青い珊瑚礁』______________。