グッバイ・チェラティン

国道沿いのバス停。
雨宿りをしながらクアラ・トレンガヌ行きのバスが来るのを待つ。

バスを待つ間、ここ数日間のチェラティン村での出来事を
思い返してみたけれど、遠浅の海岸が昔と変わっていなかったという
事だけで、あとは部屋のハプニングぐらいしか印象になく、
11年前のここでの楽しかった思い出を更新するには
不十分過ぎる数日間だった。
けれど見方を変えれば、「懐かしむ」事に重点を置きすぎて、
その変わりようにショックを受け、新たに楽しむ事をしなかった
ボク自身の非でもある。

「昔付き合っていた彼女に11年振りに逢って、
 その頃と同じ笑顔を見せてくれって言っても、
 そりゃあ虫が良すぎるよなぁ。」

バス停の屋根の下、メンソールのタバコ(1箱6.7RM=約201円)を
燻らせながら、そんな事を思ったりしているうちに、
向こうからバスがやって来た。
重い荷物とメルシンで買った釣り竿を持ってバスに乗り込んだボクは、
左手首とジーンズの中でパンパンに腫れ上がり、昨日よりも一層
痛みを増した水泡をかばいながら、ゆっくりとシートにもたれた。

「痛ぇな・・・。」

水泡のそれとは何処か違った痛みを胸の奥の方で感じながら、
走り出したバスの窓の外で、降りしきる雨に白くかすんで
消えてゆくチェラティン村に別れを告げた__________。