何故か? そこに海があるからに決まっているぢゃないかバカ

島に入ってから珍しく雨の日が多いのだけれど、それでも雨雲が切れて強い日差しが照りつけるその僅かな時間を狙い、オンボロボートを操船し海原に出ては竿を振る。日焼け止めクリームを塗り忘れた顔や手足が真っ赤になりヒリヒリ痛む中でも、なんだか気持ち良いのだよ。

先日知り合った方に「何故そんなにイカ釣りが好きなんですか?」と聞かれた時、無意識に「余計な事を考えなくて済むからね。」と答えてしまい、直ぐ後にそんな気障な答えを出してしまったのが恥ずかしくなりすぐに「だってこんなにボートやジェットスキーが行き交う海の上で他の事をボーっと考えてたら事故したり岩に乗り上げたりするでしょーよ。」と慌てて付け足したけれど、まんざら外れているわけでもない。仕事でも遊びでもなにかに本気で集中出来る時間は幸せなのだよ。

雨雲が近づいて来るのをジャングルの向こうに確認し、海から戻りボートや釣り具を片付けた後、マダラ模様に皮の剥けた額や鼻の頭を指で摩りながら、ゆっくりとした足取りで砂浜をのぼるボクのつく大きなため息の中に混じるアナタの朧げな笑顔が、後ろから吹いてくる海風に運ばれ何処かに消えてゆく夕暮れ時____。