怪しいインディー

「実はティオマン島で虫に刺されて、左足に水泡が出来たのよ。」

「OK、ミスター・トミオカ。では、まず15RM(約450円)払って、
 それからこの番号札が呼ばれるまで待ってて。はい、次の方。」

___港町メルシンの病院の待合室。
今朝、ティオマン島から戻ったボクは、ホテルに荷物を下ろしてすぐに、
メルシンの公立病院に行った。

「次の方。スワヒリ・アブディル・タンマットラ。
 ・・・居ないのか?スワヒリ・アブディル・タンマットラ!!」

病院の受付スタッフがやたら長い名前を、
大声で繰り返し呼ぶその度に、ボクの背後では10人ほどの
インド系マレー人(以下インディー)グループの一人が立ち上がってみては
また座り、また別の一人が立ち上がってみてはまた座り。
まるで往年の名クイズ番組「本物は誰でしょう?」の、
クイズの答えが明かされる時のような、本人と偽者たちの
立ったり座ったりの光景が繰り広げられるのだけれど、
彼らの表情や態度はクイズ番組のそれとはかけ離れ、
笑みも余裕も談笑もまったくなく、ただただ落ち着きなくソワソワしている。
その中のリーダー格の男が係員の所に行き、名前を確認した後、
「オマエだ、オマエ。早く来い!!」と、苛立ち混じりに
グループの内一人に手招きをすると、
手招きされた男は、オドオドした表情を隠せないままで受付の前まで行く。

「今日は何処が悪いの?」という受付スタッフの質問に、
隣に立つリーダー格の男のどことなく強制的な促しの後、
自身の額に手をあてながら、
「あ、頭が痛い。ね、熱があるかも。」と、
たどたどしい言葉で答えるインディーA
そして前払い制の治療代をリーダー格の男が支払った後、
インディーAは挙動不審なオーラを放ちながらグループの輪に戻ってゆく。

「はい、次の方。インディーBさん!インディーBさん!」
再びやたら長い名前が繰り返し呼ばれる中、
ボクの背後では第2回「本物は誰でしょう?」が行われ、
先ほどと同じくリーダーのイライラ手招きがあり、
その中の一人が、またオドオドしながら受付に向かい、
受付スタッフの質問に、
「あ、頭痛い。ね、熱があるかも。」と、
前のインディーAとまったく同じ仕草をしながら同じ台詞を吐いた後、
リーダーがイライラしながらお金を払い、そいつは輪の中に戻ってゆく。
これがその後インディーJまで8回繰り返された。
もうほとんどデジャヴのようなそのやりとりに、病院スタッフたちも
怪訝そうな表情を見せるものの、受付拒否などはしない。

日本のような保険制度が無い代わりに、何人も医療を受けられるようにと、
治療費(薬代込み)も極めて安いマレーシアの公立病院。
それゆえに、クスリ欲しさにそのシステムを悪用する輩も
確実に存在するようで。

「でも、あんな訴えで手に入るのは、所詮は風邪薬程度やろ。」

診療終了後、薬局で抗生物質と抗ヒスタミン剤を受け取り病院を出て、
ホテルに戻る帰り道。
怪しくもおマヌケなインディーたちが少し可笑しく思えた。