水疱を破るのだ!!

「水泡は決して自分で破ってはいけない。自然に破れるのを待つ事。」

これは、数年前に此処マレーシアで皮膚科医から言われた言葉
なのだけれど、昨夜手に入れた二代目の抗生物質も効かない今、
パンパンに腫れあがった左手首の水泡が、周りの皮までひっぱって
痛いので、医師のいいつけもこの水泡も破る事にしたのだよ。

ライターで熱したカッターの刃を慎重に水泡の表面にあてると、
まだ切ってもいないのに、カッターの刃の熱で水泡破れ、
中から体液がピューッと勢いよく吹き出した。
この体液が体の別の部分に付着すると、その部分に再び水疱が
出来る「とびひ」の恐れもあるので、慌てて近くにあった
トイレットペーパーを水疱痕の穴にあて、体液を吸い出した後、
しぼんだ水疱の皮を剥がし、すぐに水道水で手を洗った。
皮が無くなってもまだ体液が滲み出てくるその傷口に、
消毒軟膏をすりこみ、ガーゼをあてて上からテープで止めるのだけれど、
なにせ右手しか使えないので不便極まりないったらありゃしない。
とりあえずこれで痛みは取り除けたのだけれど、
また同じ箇所に水疱が出来やしないかと不安でならない。
そこで、部屋を出て、再びホテル斜向かいのクリニックに行き、
受付で今朝までのいきさつを説明し、ドクターの診察を受ける事になった。

「キミ、マレー語上手だねぇ。どこか学校にでも通ったの?」
「本だけですよ。旅の会話本だけで、なんとか。」
「へぇー凄いねぇ!! ところでトゥリマカシって日本語で何て言うんだっけ?」
「アリガトウでしょ、アリガトウ。」
「アリゲーターみたいだねぇ、ワッハッハッハ。」

陽気な医師は、ただ陽気なだけではなく、
「抗生物質が効かないとなると、過剰なアレルギー反応かも。」という
ボクの素人ながらの見解もきちんと理解してくれて、
左手首と左足ふくらはぎの水疱痕の傷口に新しいガーゼを貼ってくれた後、
新しい抗アレルギー剤を処方してくれた。
診療代は薬代込みで26RM(約780円)。
その陽気な医師の明るさに、不安で沈んでいた心も救われた気がする午前11時。

診療後、薬を出してくれる看護師の女の子に、
「旨い飯ってどこで食べられる?」と聞くと、その会話を聞いていた
別の看護師の女の子が、親切にもボクを途中まで案内してくれた。
「あそこよ。あとは1人で行けるでしょ?」と彼女が笑顔で指さした
先の食堂で、ナシ・ダギン(羊肉入りご飯:3.5RM=約105円)
コピ・オー・アイス(ミルク無し砂糖入りアイスコーヒー:1RM=約30円)
遅い朝食を摂った。

ホテルに戻り、昨日言い忘れた「効かないエアコン」の件をスタッフに伝える。
結局、部屋を変わる事になったのだけれど、とうてい一回では持ちきれない
荷物を何回かに分けて、今朝までの部屋と新しい部屋を何往復もする羽目に
なってしまった。
新しい部屋のエアコンは効くのだけれど、今度は部屋のTVが映らない。
すっかりTVッ子になっているボクは、スタッフの許しを得て、
自分の部屋のTVと他の空き部屋のTVとを交換。
額に汗を浮かべてTVを運ぶボクの姿を見て、
「アンタ、ホント変わってるわねぇ(笑)。」と女性清掃スタッフが笑うけれど、
だってTVが見たいんだもの。しょーがないじゃない。

体を動かせば腹が減る。おやつでも食べに出かけようとしたところに、
日本の新宿2丁目のマスター(ママ?)から電話が入る。
「病院巡りの旅してますよ(笑)。」とのボクの報告に、
「アンタまた変な病気になってんの?本当に大丈夫?」と心配をして
くれるけれど、実は彼(彼女?)は最近再発・転移した癌と闘病中で、
来週から放射線治療に入るらしく、ボクよりはるかに大変なのだよ。

「ボクの方は大丈夫だからね。
 とにかく楽しんで元気で帰ってらっしゃい。」
そんなふうにボクの事を気遣ってくれるマスターの優しさに
思わず泣き出しそうになってしまった__________。